俳句は物や風景をよく観察して、そのありさまを絵のように17文字の中に写し取る文芸だとも言われます。
このような俳句の作り方を「写生」と呼びます。
写生の手法を確立させたのは正岡子規ですが、松尾芭蕉はすでにその先駆けとも言える作品を多数残しております。
例えば、こちらの名句です。
五月雨をあつめて早し最上川
松尾芭蕉
意味は、「五月雨(梅雨の雨)を流域すべてで飲み込んで増水した最上川の流れは、なんとも早くすさまじいことよ」といったものです。
作者の見たまま、感じたままの光景をそのまま表現しています。
しかし、ただ、「増水した最上川の流れがスゴイ」と詠むのではなく、「五月雨をあつめて」という表現を選んだこと、その着眼点から、作者の心の動きや性格が透けて見えます。
芭蕉の弟子である服部土芳はその著書『三冊子』の中で
「見るにつけ、聞くにつけ、作者の感じるままを句に作るところは、すなわち俳諧の誠である」
三冊子・服部土芳
と、芭蕉の教えを残しています。
見たままを作者の言葉で表現するという、正岡子規の写生手法の先駆けとも言える教えです。
俳人、後藤比奈夫は、その著書『今日の俳句入門』で、
「客観写生」とは心で作って心を消すこと
今日の俳句入門・後藤比奈夫
と述べています。
難しいですが、要するに、作意が透けて見えてはいけない、自然のありままをもっとも適した言葉で表現するのが良い、そのために作意の痕跡を消せ、ということです。
作意を消しても、そこはかとなく、作者の心の動きが見えるような句が名句となるのです。