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俳句の作り方、歴史、俳人を探求。日本俳句研究会

書評

芭蕉百名言

著者山下 一海
ジャンル俳論書
出版社:角川学芸出版
発行年月:2010年05月

解説

 句作りに役立つ、暮らしの糧になる。芭蕉が遺した言葉から精選の100語を採り上げて、俳諧全般に通じた俳文学者が紹介。俳句への限りない愛惜と学識が贈る名言集。

特徴

・中級者以上向け。初心者が読むのは辛いです。
・前提として、俳句、俳句史についての知識が求められます。
・古典から言葉を引用し解釈したものです。

書評

 芭蕉百名言というタイトルですが、松尾芭蕉だけでなく、支考(しこう)、去来(きょらい)、許六(きょりく)といった蕉門十哲(芭蕉の高弟)に数えられる芭蕉の弟子たちの言葉も含めて、構成されています。
 特に服部土芳(はっとりとほう)の俳論書『三冊子』からの引用が多いです。
 松尾芭蕉自身は、あまり書物として自分の言葉を残しておらず、後に弟子たちが書いた書物に芭蕉の教えがまとめられています。
 それらの書物の中から、芭蕉の言葉を引用し、解説しています。

 内容は、俳句の入門的な事柄から、高度な芸術論まで、幅広く網羅しており、難解な部分も多々あります。

 例えば、

耳をもて俳諧を聞くべからず、目をもて俳諧を見るべし

 こちらは、支考の俳論書『俳諧十論』から引用した支考の名言です。
 意味としては、『俳句の題材とする対象を目で見て、正確に把握することが大事である』ということだそうです。

 俳句とは、耳で聞いて楽しむ音楽的要素もあるものなので、一読した限りだと、意図するところが良くわからず、戸惑ってしまいました。
 じっくり解説を読んでみて、ようやく納得がいきました。 

 このように名言の意味が、時間をかけて噛み砕いて読んでいかないと掴めない部分があるので、知恵熱が出そうになります。

 古典から名言を引用するので、その時代背景も解説しており、どうしても人物名や書籍名などの固有名詞が多くなり、歴史の勉強をしているような感覚になります。
 俳句の初心者や、俳句の歴史に精通していない人が読むには、取っつきづらい内容だと言えるでしょう。

 ただ、芭蕉の俳諧への姿勢、物の考え方は奥深く、俳句以外のことに関しても応用できそうな人生論として読むこともできます。

 例えば、芭蕉は自分の句が他人の句に似てしまった時は、必ず自分の句を引き下げなければならない。他人の句に似てしまうことより、自分が似たような句ばかり作っていることを避けなければならない、と言っています。
 常に新しい物を作っていこうとする強烈な向上心と、もし他人の句と似たものを作ってしまったら、すぐにそれを捨てて身を引くという潔さに感服しました。

 誰しも自分の作った作品には愛着があるもの、盗作疑惑などかけられたら、意地になって濡れ衣を晴らそうとするのが普通ですが、そのような拘りを持たず、どんどん新しい句を探求していこうというのが、芭蕉の考え方なのですね。
 これは自分の作品に拘泥して、その名誉を守ろうとする人より、よっぽど俳句という芸術を愛している人の考え方だと思います。

 俳諧の道を究めようとする芭蕉の真摯な姿勢には、胸を打たれるものがあります。

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