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俳句の作り方、歴史、俳人を探求。日本俳句研究会

書評

今日の俳句入門

著者後藤 比奈夫
ジャンル俳句入門
出版社:角川書店
発行年月:1994年4月

解説

 四季はめぐり、時の流れの中より、生命の雫のように―。師・後藤比奈夫の名著を、豊富な例句をもとに易しく解説した入門書。
 著者の俳句の師である後藤比奈夫の著書「今日の俳句入門」(角川書店)の中から、特に学びたい、吸収したいと思った箇所を抜粋し、例句を「後藤比奈夫七部集」(沖積舎)および「沙羅紅葉」(ふらんす堂)から選び解説する。

特徴

・初心者向けです。
 ただし、ところどころ難しい概念や言葉が出てきます。
・高浜虚子を最大の手本としています。
・写生について詳しく書かれています。
・切れ字の効果を図で解説しています。
・写真、イラストなどは掲載されていません。
・著者の父、後藤夜半を偲んでいるような印象を受けます。

書評

 高浜虚子に客観写生に徹した句として賞賛された「瀧の上に水現れて落ちにけり」の著者、後藤夜半の息子さんである俳人・後藤比奈夫さんの著書です。

 一読して思うのは、ちょっとお父さんのことを評価しすぎなのではないか?

 ということです。
 「瀧の上に水現れて落ちにけり」が句作のお手本として、繰り替えし出て来ます。
 これは著者も自覚しているようで、あとがきで「父及び私の句を例句として多用しているが、ご寛恕願いたい」と書いています。
 高浜虚子は有名ですが、後藤夜半はまったく知らなかったので、なぜこの名が繰り返し出てくるのか? 著者と夜半の関係も最初はわからなかったので、やや戸惑いました。 

 それ以外の点については、さしたる欠点もなく良書だと思います。
 特に、写生の方法やその概念、切れ字の使い方については、他の本より詳しく紹介されています。

 夜半は高浜虚子に師事していたので、著者も高浜虚子を最大のお手本として、彼が朝日新聞で連載していた『虚子俳話』より、その教えを多々引用してくるなど、ホトトギス派の教えを知るためにも役立ちます。
 特におもしろいと思ったのが、高浜虚子が

「平明は好き晦渋(難解)は嫌い」
参考・朝日新聞『虚子俳話』

 と語ったことです。
 虚子は、俳句はわかりやすいものでなくてはならない、と考えていたのですね。
 確かに、松尾芭蕉の名句などを見てみても、
「夏草や兵どもが夢の跡」
「五月雨を集めて早し最上川」
 など、現代でもすぐに意味のわかる、わかりやすいものばかりです。

 虚子の師である正岡子規は、松尾芭蕉より与謝蕪村を評価しましたが、著者は芭蕉の方が優れているとしています。
 その理由は、蕪村の句は文学的絵画的なうんちくが含まれていて、これらについて深い知識を持った人でないと、理解できないからだとしています。
 確かに蕪村の辞世の句、

冬鶯むかし王維が垣根かな
与謝蕪村

 などは、王維が中国唐代の詩人であると同時に「文人画(南画)」の始祖であり、蕪村が彼のことを尊敬していたことを知っていなければ、その真意を理解することができないものです。

 このような句は、高浜虚子に言わせると難解で理解できないが故に、余韻が生まれないダメな句ということになるようです。

 まこと俳句というのは奥が深く、単純な基準で名句、駄句の分類ができない多種多様な評価がなされる世界だと思いました。

 また、この本は、虚子が説いた客観写生の方法について詳しく語れており、写生俳句を作りたい人にとっては、とりわけ役に立つと思います。

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