著者:アビゲール・フリードマン/〔著〕 , 中野利子/訳
ジャンル:俳句エッセイ
出版社:岩波書店
発行年月:2010年11月
著者は北朝鮮問題を担当し六カ国協議の担当者でもあった米国の外交官。
在日時にふとしたきっかけで俳句の深みにはまり、その面白さに目覚める。
本書は、2年半ほどの体験を振り返りながらまとめ上げたユニークな書。
俳句愛好家との交わりと句会への参加。そして俳句の先生との出会い。
俳句を作ったこともなかった著者は、俳句の基本や作法を学び、さまざまな日本人との心の触れあいを通して、めきめき腕を上げる。
ユーモアを交えた気取りのない温かい文章でつづられた、愉しい俳句入門。
俳句の素人には自分でも作ってみようと思わせ、経験者には俳句の基本とは何かを改めて考え直させる挑発力に富む。
俳句という言語表現の魅力を語る中に、日本の文化への、また人と人の交わりや生き方、世界への関与の仕方などへの深い洞察も散りばめられていて、示唆的である。
・初心者、俳句ファン向けです。
・アメリカ女性が日本文化に魅了され、学ぶ過程が描かれています。
・著者は外交官という職業についており、仕事や家庭についても語られています。
最初、アメリカ人女性の著者は俳句会を、悪質なカルト集団か、極右愛国主義の温床かも知れないと思ったそうです。
また、「魚野」という俳号の人を紹介された時、生臭く腐った魚が散らばっている野原を連想して、変に思った、など初めて俳句に触れたときの戸惑いの感情をユーモラスに描いています。
外国人から見ると日本の文化は、このように映るのかと、微笑を誘います。
松尾芭蕉の句『夏草や兵共がゆめの跡』から、アメリカの高校で学んだシェリーの詩『オジマンディアス』を連想するなど、外国人ならでわの視点で書かれており、非常に新鮮です。
いくらなんでも、俳句グループをカルト集団かも知れないと勘ぐるなど、笑い話のようですが、30人近い男女が定期的に集まって会合を開いてれば、そのように思われても無理は無いのかも知れません。
また、アメリカ人女性というと、自信満々で自己主張が強いようなイメージを持ちますが、知らない人間やグループに近づくためにおっかなびっくりしている様子や、仕事や家庭、俳句作りに悩む様子が描かれていて、意外と日本人に近い感性をしているのだなぁ、と思いました。
ユーモアも交えて語られる俳句修行エッセイですが、著者のアビゲールさんは、日本文化や日本人の感情を理解するために、真剣に俳句を学ぼうとしており、好感が持てます。
俳句作りの要点も作中で語られており、戸惑いながら俳句作りを学んでいくアビゲールさんと一緒に、俳句の世界に入っていくことができるようになっています。
彼女の悩みや質問に、師匠役のモモコさんが、懇切丁寧に答えてくれます。
初心者目線で作られているので、俳句の入門書としても役立ちます。
例えば、アビゲールさんはバスの車体に、次のような文字が書かれているのを見て、これは俳句だと思います。
おもいやり人に車にこの街に
五七五になっているので、俳句に違いないと思って、同僚の日本人たちに話しましたが、誰も俳句だとは思いません。季語が無いので、これは単なる標語だというのです。
これが、なぜ俳句ではないのか? 季語が無い俳句も存在するので、彼女は疑問に感じました。確かに、これを理屈で説明するのは難しいです。
理由をあげるなら、「人になにか行動させるためのメッセージになっているから」だと思います。
俳句は、他人に「おもいやりを持ちましょう」などと、説教がましいことを言うのが目的ではなく、その場で感じた自然や情景の美しさを表現するためものものですからね。
この他にも、俳句作りに役立つ情報が、著者のの上達段階に合わせて、登場します。
「芭蕉のように」「一茶のように」つくろうなどと考えないでください。
(中略)
あなた自身を表現する句が生まれたら、それが「よい俳句」なのです。
ただ観察できた自然について書くだけでなく、自分も自然の一部なのだという感覚でこの世界をとらえるのも、また俳句です。
などなど。非常に勉強になる内容です。
ただ、タイトルから俳句ハウツー本だと思って読むと、話が飛び飛びになっているような印象、「早く俳句の話をしろよ」といったもどかしさを感じます。
彼女は外交官という特殊な職業に就いており、そこでの苦労や、北朝鮮の拉致問題といった政治の話、女性ならでわの家族の話題なども出てきます。これを興味深いと感じるか否かで、評価が分かれるでしょう。
これは参考になる!読んでおいた方が良い!
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