本文へスキップ

俳句の作り方、歴史、俳人を探求。日本俳句研究会

俳人列伝

松尾芭蕉は幕府の調査官!?2015/01/10

●大林賢栄さんの意見

 松尾芭蕉さんが幕府の調査官であった事を証明する証拠は、彼が残した膨大な「句集」に認めた情報で、窺い知る事ができます。

「行く春や鳥啼魚の目は泪」

 この歌は芭蕉さんが幕府の命を受けて、幕府の直轄外である東北の諸藩を調査する、いわゆる『奥の細道⇒北の悍み地』へ出発する直前に詠んだ歌です。この歌の中で旅の目的を次のような文句で示しています。

【不具る 道理 無き 府 を 命 は 靡たば 塞ふ】

 語句の意味解釈を解説すると、以下の通りです。

★「不具る」とは「不備がある」で意味解釈は「幕府の公務が円滑に執行されない」。
★「道理無き」とは、「正式では無い」で意味解釈は「幕府の公務が正式に行使されない」。
★「府」とは「地方官」。
★「命」とは「幕府の諸藩の公務の調査命令」。
★「靡」は「不具る道理無き」に掛り、意味解釈は「不正行為をする」。
★「塞ふ」の意味解釈は「阻止する」。

 原文の解説は以下の通りです。

★【幕府の公務に際し、不備があり、正式な公務を怠る地方官。幕府はそのような事になびく地方官がいれば、直ちに阻止し、罰する】

 前回も申し上げましたが、当時、東北地方は幕府の“目の届かない”直轄外であり、地方に点在する諸藩の動きを幕府がじゅうじ監督する事ができませんでした。
 幕府は密に隠密を派遣しますが「地方諸藩へ密に派遣された調査官は地方諸藩によって、密に暗殺される」という結果になり、効果が無かったわけです。そこで幕府が思案したのが、当時、知る人ぞ知る、高名な俳人、松尾芭蕉さんを幕府の調査官として地方へ派遣することだった、というわけです。

歌は作者本人の「本音の捌け口」

 余談になりますが、歌は作者本人の「本音の捌け口」であり、これは支配するものと支配されるものが本音を歌に託すという、日本古来から受け継がれてきた固有の文化です。古人は本音を歌に託します。私が30年間解析した範囲でですが歴史的に見てもこれに反応して、仕返しをしたという事例はありませんし、歌を抹殺したという事例もありません。

 つまり、古来より、支配する者たちも支配される者たちも歌に託した本音は「歌の中だけのモノ」として、扱われ、「歌に託した本音は無礼講」だったのです。だから、『万葉集』や『源氏物語』などは無論の事、ありとあらゆる膨大な歌集が後世に残ったのです。これらは全て、それぞれの時代で生きた歴史を動かした者達の精神史と言っても過言ではありません。