明治時代を代表する俳人、正岡子規に連なる俳人たちは、月並み俳句の特徴の一つとして『擬人法』を上げました。参考『月並み俳句とは?』
擬人法とは、植物や動物や自然などを人に見立てて表現することです。例えば、鳥が歌う、花が笑う、などといったものです。
月並み句とは、要するに駄句のことです。
しかし、正岡子規の後継者である高浜虚子は、
大寺を包みてわめく木の芽かな
という植物を擬人化した句を詠んでいます。
また、松尾芭蕉の名句である
さみだれをあつめて早し最上川
も川を擬人化したものであるとされます。
この他にも、擬人法を使った名句は、多々あります。
『NHK俳句』の俳句選者を務めた高野ムツオも、
うしろより来て秋風が乗れと云う
という風を擬人化した句を詠んでいます。
つまり、擬人法を使っているから、悪い句であるとは一概には言えないということです。
擬人法は意外性のある句を作れる魅力的な手法として知られています。
子規派の俳人たちが『擬人法』を月並み句の特徴に加えたのは、これを安易に使うと、気取った作意が透けて見える、薄っぺらい句になってしまうからです。
また、擬人法の発想というのは、どうしても似たり寄ったりになりがちで、陳腐な句が生まれやすいという欠点があります。
もし擬人法を使うのであれば、常識から外れた発想が必要となるのです。
しかし、初心者が突飛な発想をしようとすると、人をアッと言わせることに力を入れるあまり、対象を良く観察しないで作ったものになりがちです。
これでは動物や植物などに接したことで得られた、ありのままの「感動」を伝えることができません。
「いかにうまい俳句を作るか? ではなく、いかに素材に接した感動を伝えるか?」が俳句本来の醍醐味です。
初心者の場合は、擬人法に頼ろうとしないで、まずは対象を良く見て、写生するところから始めるのが正解となります。
しっかりとした写生の表現技法を身につけ、自身の句を冷静に、客観的に見られるようになってから、擬人法に挑戦するのです。
擬人法は難易度が高い、玄人向けの手法であると言えるでしょう。